子どもへの性教育、どうする? からだ・こころ・人権を守るために、乳幼児期からできること

「性教育」と聞いて、皆さんはどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。
妊娠や出産、思春期の体の変化、あるいは“少し話しづらいもの”と感じる方も少なくないかもしれません。
実際、日本では性教育が「性行動」や「生殖」の話題に限定されがちで、「家庭ではまだ早い」「学校に任せたい」と距離を置かれてきた側面があります。
しかし、国際的に性教育は“人が尊厳をもって生きるための基礎教育”と位置づけられています。
助産師として、命の始まりから人の人生に関わる立場だからこそ、今あらためて「包括的性教育」について、日常や育児と結びつけながらお伝えしたいと思います。
目次
❚そもそも性教育って何?
❚研究に基づく包括的性教育による効果
❚今日からできる育児のヒント
そもそも性教育って何?
突然ですが、皆さんは学生時代に「性教育」を受けた記憶はありますか。
保健体育の授業で断片的に聞いた覚えはあるものの、内容までは思い出せない方もいれば、親から月経や体の変化について教えてもらったという経験をお持ちの方もいるでしょう。
私自身は、小学校高学年の頃、女子だけが集められナプキンの使い方を学んだこと、そして中学生の時に「いのちの授業」として生命誕生の話を聞いたことを覚えています。
このように、多くの人が「性教育=生殖や性行為の話」というイメージを持ちやすいのではないでしょうか。
しかし、国際的な性教育指針である「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、性教育はそれらに限定されるものではないと示されています。
人が自分のからだとこころを理解し、他者と尊重し合いながら、安全で幸せな人生を送るための「包括的な教育」として位置づけられています。
これを包括的性教育(Comprehensive Sexuality Education:CSE)と呼びます。
【包括的性教育に含まれる内容】
包括的性教育では、以下のような幅広いテーマを扱います。
●性とからだ
(体の発達、思春期、更年期、生殖、妊娠・出産、避妊、性感染症など)
●こころと人間関係
(友情、恋愛、家族、信頼、コミュニケーション)
●人権と多様性
(性の多様性、ジェンダー平等、自尊感情、幸福の権利)
●暴力と安全
(性暴力、虐待、DV、境界線〈バウンダリー〉、助けを求める力)
つまり、包括的性教育とは、単なる「性の話」ではなく、人が安心・安全に生きるための健康教育そのものを指します。
だからこそ、思春期を迎えてから突然始めるのではなく、乳幼児期から発達段階に応じて、継続的に育まれていくことが重要だとされています。
研究に基づく包括的性教育による効果
「早くから性教育をすると、かえって性行動が早まるのでは?」
こうした不安の声を耳にすることがあります。
しかし、国際セクシュアリティ教育ガイダンスには、数多くの研究結果をもとに、包括的性教育が若者の健康と安全を守る効果を持つことが示されています。
具体的に、包括的性教育を受けた若者は、
・初めての性的関係を慎重に考え、開始を遅らせる傾向がある
・無防備な性行為の頻度が低下する
・性交相手の人数が少ない
・避妊や性感染症予防の行動をとる割合が高い
といった、望ましい結果が報告されています。
これは、知識を与えるだけでなく、「自分を大切にすること」「同意」「選択する力」を育む教育だからこそ得られる成果と言えるでしょう。
今日からできる育児のヒント
では、こうした包括的性教育を、日々の育児の中でどう実践すればよいのでしょうか。
まず大切なのは、大人自身が持っている無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に気づくことです。
たとえば、
・「男の子なんだから泣かないの」
・「女の子にはピンクが似合うよ」
こうした言葉は、悪気なく使われがちですが、「〜だからこうあるべき」という価値観を子どもに刷り込んでしまうことがあります。
包括的性教育で重視されることの一つとして、自分と他者の境界線(バウンダリー)を尊重することが挙げられます。
これは相手を突き放すことではなく、「自分もあなたも大切」という人権の考え方に基づいています。
「泣きたい時もあるよね」
「あなたはそれが好きなんだね。その選択もいいね」
そんな声かけの積み重ねが、子どもに「自分の感情や考えは尊重されていいものだ」という自己肯定感を育てます。
これこそが、人間関係や人権を土台とする包括的性教育の実践です。
まとめ
包括的性教育は、特別な教材や難しい知識がなければ始められないものではありません。
日々の関わりの中で、子どもの気持ちに耳を傾け、選択を尊重し、「安心して話せる関係」を築くこと自体が、すでに性教育の一部です。
家庭が「一番安心・安全な場所」であると子どもが感じられることは、将来、困った時に助けを求める力や、自分と他者を大切にする力につながっていきます。
包括的性教育を“未来のための贈り物”として、今ここから一緒に育んでいきましょう。
キーワード:性教育|包括的性教育|人権|乳幼児
参考文献
・国際セクシュアリティ教育ガイダンス改訂版
・国際セクシュアリティ教育ガイダンス活用ガイド