【医師解説】発達障害とは?それぞれの特性と向き合う

 

「発達障害」という言葉を以前よりも耳にする機会が増えたように思います。

昔は「少し変わった子」「落ち着きのない子」と見られていた方たちが、「ひとつの発達の特性なのかもしれない」と周囲に気づかれるようになり、サポートしようという時代になってきました。精神科の現場にいると、そうした時代の移り変わりを肌で感じます。

 

ただ、発達特性、発達障害という言葉が独り歩きしてしまっているのも事実です。

実際、「発達障害とはなに?」と聞かれても、説明が難しく感じる方も多いのではないでしょうか。

今回は、「発達障害」について分かりやすく紹介していきます。

 


 

目次

発達障害とは?

発達障害の主なタイプとそれぞれの特徴

大人の発達障害 年齢を重ねるとどうなる?

まとめ:発達障害との向き合い方 周囲の支援と理解

 


発達障害とは?


「発達障害」という言葉は最近よく使われるようになっていますが、その意味が正確に理解されているとは言い切れないようにも思います。

 

発達障害とは、発達障害者支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」と定義されています。

このような障害は、外傷や病気によって後天的に起きるものとは異なり、脳の発達の過程で生じる先天的な特性です。

 

そして重要なのは、発達障害というのは「病気」ではなく「特性」だということ。

つまり、治療して“治す”ものとは少し違い、その人が社会の中で生きやすくなるように環境を整えたり、本人が工夫を学んだりすることが中心となります。

 

発達障害は、決して珍しいものではありません。

子どもの頃には気づかなかった、診断されなかったという場合であっても、大人になって診断されるというケースも今では少なくありません。

 

 


発達障害の主なタイプとそれぞれの特徴


ここで代表的な3つのタイプについて、簡単に特徴をご紹介します。

 

自閉スペクトラム症(ASD)

 

対人関係やコミュニケーションに苦手さが見られやすく、パターン化された行動や興味をもちやすい傾向があります。

「空気を読むのが苦手」「冗談が通じにくい」「段取り通りじゃないと落ち着かない」といった例があり、自分のペースを大切にする一方で環境の変化に大きく影響されることがあります。

 

 

学習障害(LD)

 

知的な遅れはないにもかかわらず、「読む」「書く」「計算する」など、特定の分野にだけ著しい困難が生じる状態です。

「黒板を写すのに人の倍の時間がかかる」「音読が極端に苦手」「計算が追いつかない」など、周囲からは「なまけている」と誤解されてしまうこともあります。

 

 

 注意欠如・多動症(ADHD)

 

注意が散漫だったり、落ち着きがなかったりする症状が特徴となります。

「忘れ物が多い」「じっとしているのが苦手」「思いついたことをすぐ口にしてしまう」などが典型的な症状となります。

大人になると多動は目立たなくなることも多いですが、「話を整理して聞けない」「時間管理が苦手」「ケアレスミスが続く」といった困りごとが出てくることがあります。

 

 

この3つの特性は、はっきり分かれているというより、重なり合ったり、グラデーションのように存在していることがほとんどです。

実際に、自閉スペクトラム症と注意欠陥・多動症の両方の要素を持っているという人も少なくありません。

 

 


大人の発達障害 年齢を重ねるとどうなる?


発達障害は「子どものもの」と思われがちですが、実際には生涯にわたって続く特性となります。

置かれている環境や周囲の人間との関係と、ご自身の特性の間に「ズレ」が生じたとき、生きづらさが表面化することがあります。

 

学生時代には成績優秀で「少し変わっているけど頭がいい子」で済んでいた方が、社会に出て「空気を読んで動く」ことが求められた途端に適応できなくなることもあります。

 

この観点から言えるのは、

「今の時代は大人の発達障害が“見える化”しやすくなってきた」ということ。

昔なら「変わっている」で済まされた特性も、今はしっかりと向き合える機会が増えているのではないかと感じています。

 

 


まとめ:発達障害との向き合い方 周囲の支援と理解


発達障害を持つ方たちは、「できないこと」もありますが、「できること」というのも多く持っています。

ただ、周囲からの理解がなければ、そこを活かすチャンスが持てないまま傷ついてしまうことも少なくないのです。

 

家庭、学校、職場。それぞれの場面で「その人らしさを大事にする」視点があるだけで、一人ひとりの生きやすさは大きく変わります。

診断を受けることがゴールではなく、「この特性とどのように向き合い、生きていくか」を一緒に考えていくことが大切だと思います。

 

誰もが少しずつ違っていて、それでも一緒に生きていける社会。

発達障害というものは、その一端を照らしてくれる大事なレンズだと思います。

 

 

キーワード:発達障害|自閉スペクトラム症|学習障害|注意欠陥・多動症


参考文献

政策レポート 発達障害の理解のために:厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html


執筆者:Dr.MTG