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適応障害とは?
「仕事が変わってから毎日涙が止まらない」「学校に行こうとすると吐き気がする」「引っ越してから眠れない、食欲がない」このような声を聞くことがあります。
適応障害とは、特定の環境の変化や特定のストレスにうまく対応できず、心や体に不調が現れる状態のことをいいます。
ただのストレスだと思われてしまうかもしれませんが、決して軽視できるものではありません。
転職、引越し、結婚、離婚、昇進、退職、家族の死など、一見ポジティブな出来事も含まれていますが、心には大きな負担になることがあります。
適応障害は、そういった「環境の変化に心がついていけない」時に起こるものです。
ストレス要因となる出来事があってから3ヶ月以内に症状が出現し、ストレス要因消滅の6ヶ月~1年以内で症状が消滅するといわれています。
主な症状は、不眠、不安、漠然とした焦り、気分の落ち込み、興味喜びの減退、意欲低下、思考力集中力低下、自責感、など様々なものがあります。
「ただのストレス」との違いは?
適応障害について、「誰だってストレスはある」「ただの甘えだ」という反応があることを耳にします。
正直つらいなと感じてしまいますね。
ですが、こうした認識がまだまだ根強いのも事実です。
では、「ストレス」と「適応障害」の違いは何でしょうか?
違いは「生活に支障が出るかどうか」ということです。
例えば、ストレスを感じていても寝たり食べたりが不自由なくできて、仕事にも問題なく行けているなら、いわゆる「通常のストレス反応」といえます。
一方、適応障害では、
- 朝起きられない
- 出勤・登校ができない
- 涙が止まらない
- 不安やイライラがひどい
- 自分を責めてばかりいる
といった状態が続き、日常生活に大きな影響が出てきます。
さらに、これら症状が慢性化すると、うつ病などに移行してしまうこともあるため、早めの対処が大切になります。
実際のケース
とある企業で働いているという30代の会社員。昇進をきっかけに、部下を持つ立場となりました。
責任感がある人だと周囲からの評価が昇進につながったということでしたが、ある日突然、会社に行けなくなってしまったといいます。
自宅では毎晩2〜3時間しか眠れず、食事も思うように食べられず、常に不安を感じ動悸がするという症状で受診。
クリニックに来たときには、すでに2週間近く仕事を休んでいました。
診断は「適応障害」。
「自分が弱いだけだと思っていた」「こんなことで病院に来るなんて恥ずかしい」とおっしゃっていました。
ですが、話を聞いていくうちに、「自分の気持ちにフタをして無理していた」と気づき、数ヶ月間休職をし、カウンセリング・薬物療法(薬を使って病気の治癒や症状の改善を目指す治療法)で少しずつ元気を取り戻していきました。
治療やサポートの選択肢
適応障害の治療は、「環境の調整」と「心理的サポート」が基本になります。
まずは、ストレスの原因から距離をとること。これは「逃げ」ではなく「戦略的撤退」です。
その上で、心療内科や精神科での認知行動療法や、必要に応じた薬物治療を行います。
薬はあくまで一時的なサポート役。不眠や不安が強いといった症状に合わせて処方されます。
まとめ:自分や大切な人を守るためにできること
適応障害は誰にでも起こりうるものです。
そして、何より大切なのは「異変に早く気づき、無理をしないこと」です。
もし「最近ちょっと様子が変だ」と思う家族や友人がいたら、責めたり説教したりするのではなく、「どうしたの?何かあった?」と一言声をかけてみてください。
そして、自分自身にも、「こんなことでしんどいと感じるなんて…」と責めるのではなく、「毎日よく頑張っているね」と声をかけてあげていただきたいです。
心が悲鳴をあげている時は、体と同じように、休ませてあげることが大切です。
適応障害は、心が限界を感じているというサインの一つです。
決して「甘え」ではありません。
キーワード:適応障害|ストレス|治療
参考文献
1)日本精神科病院協会 精神科医療ガイド
https://www.nisseikyo.or.jp/guide/psychiatry01.php
執筆者:Dr.MTG