【助産師解説】授乳中に感じる不快感『不快性射乳反射(D-MER)』かも?

 

出産後、想像していた授乳とは異なり、

「授乳が気持ち悪いと感じる」

「授乳をしているときだけ、悲しい、いなくなりたいと涙が出る」

「私は愛情がなく母親失格」

という症状や感情の変化を経験するママがいます。

 

このような症状や気持ちの変化がある場合、

不快性射乳反射(D-MER: Dysphoric Milk Ejection Reflex)が考えられます。

 

あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、母乳で育児を行っているママが経験する可能性のあることで、授乳時、突発的に不安や悲しみなどの負の感情が現れます。

授乳のたびに不快感が繰り返されることもあるため、ママにとって非常に苦痛となることがあり、母乳育児の継続に影響を及ぼす可能性もあります。

今回は、この不快性射乳反射の症状や対策方法などについて解説していきます。

 


 

目次

不快性射乳反射ってなに?

ディーマーの原因はホルモン?

対処法は?

まとめ

 


不快性射乳反射ってなに?


不快性射乳反射は、ディーマー(D-MER)とも呼ばれています。

母乳を出す反射である「射乳反射」の30~90秒前に、胃の不快感、不安、悲しみ、恐怖、気分の落ち込み、緊張、感情的な動揺、いらいら、絶望感、否定的な感情が現れるとされています。

個人差はありますが、射乳開始から数秒~1分程度続き、その後自然に不快感は消えると言われています。

産後うつかもしれないと不安になるママもいらっしゃるかもしれませんが、ディーマーは精神的な問題ではなく、身体的な反応であり、急激なホルモンの変動が関係していると考えられています。

 

 


ディーマーの原因はホルモン?


ディーマーの原因については、まだはっきりと解明されていません。

ですが、現時点ではホルモンの変動が影響しているのではないかと考えられています。

母乳の分泌には、母乳を作り出す「プロラクチン」と、作られた母乳を外へと押し出す「オキシトシン」という2つのホルモンが大きく関与しています。

赤ちゃんが母乳を吸うことによって、プロラクチンとオキシトシンの血中濃度が上がり、それによって快感や幸福感を司る「ドーパミン」という神経伝達物質が一時的に低下してしまいます。このドーパミンが急激に低下することにより快感や幸福感が低下することで、不快感や否定的な感情が出てくるとされています。

 

 


対処法は?


ディーマーの症状は、一般的には出産後3か月ほどで軽減すると言われているものの、授乳期間中ずっと感じる方もいます。

症状と向き合いながら母乳育児を続けていくために、ディーマーに対する対処法の例をご紹介します。

まず大事なことは、「自分自身がディーマーかもしれないということを知ること」、そして「授乳時の一時的な生理的な現象であること」を理解することです。

 

 

 

症状について知っておく

 

ディーマーの原因を解説しましたが、授乳による「生理的反応」であり、愛情不足などが原因ではないことを理解しておいてください。

また、ディーマーの症状は人それぞれです。

ご自身の不快感が何分程度続くのか、毎回なのか、何か引き金になるような事柄があるのかなど、ご自身の症状を理解しておくことも重要です。

 

 

リラックスできる方法を探す

 

射乳反射前の30~90秒間にかけて不快を感じるということが言われているため、そのタイミングだけママ自身の気をそらすことで不快感を軽減することが出来ます。

例えば…

  • 好きな音楽を流す
  • 好きな香りを嗅ぐ
  • テレビや動画などを見る
  • 好きなお菓子を食べたり、飲み物を飲む
  • 家族や友人などと会話をしながら授乳

などがあります。

ママが幸せを感じやすいことを授乳をしながら取り入れていただくことで、ドーパミンの分泌を促し、その結果、不快感の軽減に繋がります。

 

また、睡眠不足が症状を悪化させるという見解もあります。

育児でなかなかまとまった睡眠を取れないかもしれませんが、育児、家事の合間に睡眠の時間を取れるように調整していただくことも検討してみてください。

ご家族にも協力してもらいながら休息時間を確保しましょう。

 

 

専門家へ相談

 

授乳のたびに不快を感じてしまうとなると、ママにとって大きなストレスになりますよね。

そのため、母乳での育児を諦めるという選択を検討する方もいらっしゃるかもしれません。

辛い時は専門家に相談することをおすすめします。

母乳相談室や母乳外来では、乳房のトラブルだけでなく、授乳に関するお悩みの相談も可能です。

お一人で抱え込まず母乳育児や乳房ケアのプロである助産師に是非ご相談ください。

 

 


まとめ


授乳時に、ディーマーの症状が出るママとそうでないママがいることに関してははっきりとした理由は分かっていません。

ですが、ディーマーは母乳育児をしているママであれば誰でも経験する可能性のある生理的現象です。

 

授乳に不快を感じるからといって、赤ちゃんに対する愛情がない、母親失格ということでは決してありません。

自分自身を責めず、ママが安心して育児できることを大切に向き合っていただければと思います。

 

お悩みの際は一人で悩まず、専門家に相談しながらご自身に合った対策を見つけていきましょう。

 

 

キーワード不快性射乳反射|ディーマー|ホルモン|原因|対処法


参考文献

1)日本助産師会「乳腺炎ケアガイドライン2020刊行に寄せて」〈https://www.midwife.or.jp/user/media/midwife/page/guilde-line/tab01/nyusenen_guideline_2020_2.pdf

2)オーストラリア母乳育児協会は登録研修機関〈The Australian Breastfeeding Association

3)アメリカ合衆国ニューヨーク州ネイプルズ D-MER.org〈https://d-mer.org/


執筆者:高橋萌